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第8章 初めてのデート 3/7

last update Dernière mise à jour: 2025-04-30 18:00:14

「……」

 目を覚ました悠人〈ゆうと〉が、またしても違和感を感じた。

 違和感の原因である何かが、体にまとわりついてくる。

「うぎゃあああああああっ!」

 沙耶〈さや〉だった。

「ななな、なんでお前がいるんだ!」

「どうしたの!」

 悠人の叫びに、小鳥〈ことり〉が部屋に駆け込んできた。

「……サーヤ……?」

「ん……ふにゅ……」

「こ、小鳥……助けて……」

「……」

 まどろみの中、またしても沙耶の顔が近付いてくる。小さな口を開け、悠人の首筋を頬張る。

「はむっ……」

「ダメええええええっ!」

 叫ぶと同時に、小鳥が沙耶の体を引き離す。そしてすかさず、自分の両足を悠人の首に巻きつけた。

 関節技、「首四の字固め」の完成。

「ぐががが……」

 悠人が悶絶しながらタップする。

「朝からサーヤに抱きつかれて、しかもいやらしそうに喜んで……この、このっ! 私というものがありながら!」

「ギブ……ギブだ小鳥……」

 小鳥が足をほどくと、悠人が首を押さえて咳き込んだ。

「……お、お前……朝の目覚めにこれはきついぞ」

「だよねー。悠兄〈ゆうにい〉ちゃんは、サーヤのキスの方がいいんだもんねー」

「当たり前のように冤罪を吹っ掛けるな」

「ふっ……」

 沙耶の肩が震える。

「ふふふっ」

「サーヤ?」

「いやすまない。面白い

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    「これはまた……面妖な味だな」 菜々美〈ななみ〉の淹れたコーヒーを口にして、沙耶〈さや〉がつぶやく。「北條さん、コーヒー駄目だった?」「いえいえ、違うんですよ白河さん。このサハラ砂漠、インスタントコーヒーなるものを飲んだことがないんですよ。なにしろお嬢様らしいですから。胸は平民以下ですけどね、おほほほほほっ」「そう言うお前は、こういう平民飲料水で無駄な色香を育てた訳だな」「二人ともほんと、何がきっかけでも会話が弾むよね」 小鳥〈ことり〉が笑う。菜々美もつられて笑った。「みなさんほんと、楽しいですね」「あははっ……でも白河さん、想像してた通りの人ですね」「私ですか?」「はい。悠兄〈ゆうにい〉ちゃん、よく白河さんの話をするんです。その時の悠兄ちゃん、いつも楽しそうで。だから白河さんに会えるの、すごく楽しみだったんです。やっと今日会えて、悠兄ちゃんがあんな顔をする理由、分かった気がしました」「どんな風に分かったのか、聞いてもいいですか?」「白河さん、きっとすっごく優しくて、気遣いの出来る人なんだと思います。そして多分、どんなことにも一生懸命なんだろうなって」「……すごく壮大な分析ね」「私も白河さんのお話は伺ってましたが、確かにその時の悠人〈ゆうと〉さん、優しい顔をしてました。私結構、嫉妬全開でしたよ」 弥生〈やよい〉が入ってくる。「しかも白河さん……なかなかどうして、結構なものをお持ちなようで」 弥生の視線に、菜々美が慌てて胸を隠した。「な、なんですか川嶋さん、その目怖いですよ」「いえいえ、男所帯の町工場に咲く一輪の花。それを想像するに私、次の作品のいい刺激になると言うかなんと言うか……とりあえず白河さん、その胸をば少々触らせてもらっても」 ガンッという音と共に、弥生が頭を抑える。沙耶のトレイ攻撃だった。「ぷっ……」 菜々美が再び吹き出した。「あははははははっ」

  • 幼馴染の贈り物   第7章 深夜の邂逅 3/6

    (あれから気まずくなるかなって思ってたけど、悠人〈ゆうと〉さん、思ったより自然に接してくれて……嬉しいような寂しいような……  あれ以来告白してないけど、それでも、悠人さんの一番近くにいるのは私だって思ってた。だから変な安心感があったんだけど……最近、悠人さんから女の子の話をよく聞くようになって……私、このままでいいのかな……) コーヒーを飲み干し、悠人が立ち上がる。「よし。じゃあもうひと踏ん張りするね」「じゃあ悠人さん、頑張ってくださいね」「菜々美〈ななみ〉ちゃんもありがとね。うまくいけば、あと2時間ぐらいで片がつくと思う。菜々美ちゃん、いつでも帰っていいからね」「私、今日は最後までいます。いさせてください」「いてくれるのは嬉しいんだけど。菜々美ちゃんは大丈夫なの?」「勿論です。悠人さん一人に大変な思いはさせられません。何もお手伝い出来ないけど、せめて完成するのを見届けさせてください」「分かった。ありがとう、菜々美ちゃん」「それに……こうして一緒に、二人きりでいられるのも久しぶりですから……」 そう言うと菜々美はカップを持ち、足早に事務所に戻っていった。 * * * 菜々美は悠人の椅子に座り、膝を抱えて考え込んでいた。(思わずあんなこと言っちゃった……今までずっと自然に振る舞ってたのに、なんであんなこと言っちゃったんだろう……焦ってるのかな、私……) 菜々美は悠人の変化に動揺していた。最近の悠人はこれまでよりも優しく、強く、誠実さを増しているように感じる。それはまるで、人生において目標を見つけたかのような変化だった。  明らかに悠人は変わった。そしてその原因が、最近悠人が口にする「小鳥〈ことり〉」によるものなのか……そのことを考えると、言いようのない不安に襲われた。(幼馴染の子供、小鳥ちゃんか……) 時計を見ると21時をまわっていた。「そうだ、うっかりしてた!」

  • 幼馴染の贈り物   第7章 深夜の邂逅 2/6

     飲み会が終わり。  菜々美〈ななみ〉は小雨の繁華街を、一人歩いていた。(悠人〈ゆうと〉さん、私のことをどう思ってるんだろう……やっぱり妹なのかな……) そんなことを考えながら信号が変わるのを待っていると、サラリーマン風の二人が近寄ってきた。「君、今一人?」「よかったら一緒にどう?」 明らかに酔っている二人が、菜々美の肩を抱いてきた。「あ、あの……やめてください」「いいじゃないの。どうせこうして声かけられるの、待ってたんでしょ」「楽しいからさ、一緒に飲みにいこうよ」 肩を抱く手に力を込める。 男に免疫のない菜々美の足が、がくがくと震えてきた。助けを求めたいが声も出ない。「あれ? ひょっとして震えてる? 大丈夫だよ、俺ら優しいから」 涙があふれてきた。「はいはいウブな真似はもういいから。行こ行こ」「……菜々美ちゃん?」 聞き覚えのある声がした。菜々美が顔を上げると、そこに悠人が立っていた。「ゆ……」 悠人の顔を見た瞬間、緊張感が一気に解け、その場にへなへなと座り込んでしまった。「うっ……」 口に手を当てると同時に、涙が頬を伝った。「ほんとに泣いちゃったよ」「てか、お前誰だよ」「何してるんだ……」「何だお前、喧嘩売るってか」「何してるんだっ!」 悠人が傘を投げ捨て、今にも飛び掛りそうな勢いで二人を睨みつける。  その勢いに、二人が一瞬後退る。しかしすぐに態勢を戻し、悠人に突っかかっていこうとした。「ふざけるなお前ら! 消えろ!」 悠人の大声に、通行人たちが足を止めて見物しだす。周りに人が集まってきたことに気付いた二人は、「けっ……格好つけてるんじゃねぇぞ!」 そう捨て台詞を残し、その場から去っていった。「……」 通行人たちも立

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